特集

地方の底ヂカラ

特集 新春座談会2024
今こそ発揮しよう!

地方の底ヂカラ

 地方の魅力に注目が集まる昨今ですが、人口減少は加速の一途。持続可能な地域のカギを握るのが「関係人口」の増加だといわれています。では、関係人口を増やすにはどんな手段が必要なのでしょうか?

 年頭にあたり、佐藤樹一郎知事と田中利明市長に佐伯市、そして大分県の未来について語り合っていただきました。

 

田中 利明 市長

 昭和58年から佐伯市議会議員(4期)、大分県議会議員(5期)を経て平成29年から佐伯市長。「佐伯がいちばん」をスローガンに「さいきオーガニックシティ」の実現を目指す。令和3年7月から「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市区町村長の会」会長を務める。

佐藤 樹一郎 大分県知事

 昭和55年に通商産業省(現経済産業省)入省。中小企業庁次長、JETROニューヨーク事務所長などを経て平成27年から大分市長を2期務める。令和5年、大分県知事に初当選。県政の新リーダーとして、18市町村との連携を強化しながら地方創生に取り組んでいる。

※対談の内容は、1/1(月)~14(日)のケーブルテレビ佐伯「さいきほっとタイム」でも放映します。

関係人口を増やす数々の取組

反転攻勢の時!観光促進で経済効果を

田中

 佐伯市の人口は、平成17年に1市5町3村が合併した当時は8万3千人でしたが、令和5年には6万6千人まで減少しており、少子高齢化対策として関係人口を増やすことが政策の要となっています。そのための手法として力を入れたいことの一つが〈外国人の定住促進〉です。

 佐伯市には造船業、水産加工業などに従事する外国人技能実習生がたくさんいますが、今後は語学の習得からサポートできる体制を整え、さらに多くの外国人の方々に定住していただきたいと考えています。そして〈イベントの開催〉も大事な戦略の一つです。令和4年に「さいき桜まつり」を市内全域のイベントに拡大したところ、集客は従来の倍以上にあたる5万5千人、経済効果は2億2千万円に及び、関係人口を定着させるにあたって大きな自信となりました。

 

佐藤

 今年の4〜6月に、福岡・大分両県がJ Rグループと共同でデスティネーションキャンペーン(DC)を実施します。それに向けて昨年5月に全国宣伝販売促進会議を開催し、関係者の皆さんを視察旅行にご案内したのですが、佐伯市では大入島でオルレの体験や、オイスターを味わっていただくなどして大変好評でした。DC期間中にもたくさんの観光客がお見えになるのではないかと思います。コロナ禍の3年間、観光業は大変厳しい状況にあり、これから反転攻勢の時期ですね。

 

田中

 そうですね。DCに向けて、佐伯市では新たな観光プロジェクトを練り『浦100』という独自のプロジェクトを始動しました。

 江戸時代から「佐伯の殿様浦でもつ。浦の恵みは山でもつ」と伝わる豊かさが、百年先も栄えますようにという願いを込め、様々なキャンペーンを展開する予定です。

佐藤

 ブリ、ヒラメ、伊勢えびなど、おいしい魚を多くの人に味わってほしいですね。視察旅行では、参加した皆さんに「すばらしいところがたくさんある」と言っていただきましたので、県としてもDCを好機に魅力を大いに発信していきたいものです。

田中

 また、近年はサイクルツーリズムも推進していまして、昨秋には「全国シクロサミット」を佐伯市で開催しました。2日間の日程で「ツール・ド・佐伯」も同時開催したのですが、市内のホテルは満室、飲食店も賑わい、これに関してもかなりの経済効果がありました。

佐藤

 時を同じくして初開催された「ツール・ド・九州」も大成功のうちに閉幕しました。国際自転車競技連合公認のレースで、大分県では日田市をステージに世界トップレベルのレースが繰り広げられました。耶馬溪、国東、そしてOITAサイクルフェスなどもあり、以前から大分では自転車を活用したまちづくりが盛んですが、全国的にサイクルツーリズムへの注目が集まる今、田中市長には「自転車を活用したまちづくりを推進する全国市区町村長の会」の会長としてその中心となり、さらに自転車文化を広めていただきたいと思います。

 

田中

 こうした大会の成功を受けて何より県民、市民の皆さんに「地域の底力を発揮できる時代だ」と実感してほしいものですね。

 

佐藤

 ちなみに、昨年から自転車に乗る際にヘルメットの着用が努力義務となりましたが、大分県の着用率は全国第2位。安全が何より大事ですので、1位を目指してさらに多くの方々が着用くださるようご協力をお願いします。

 

広域交通の整備とふるさと納税への期待

佐藤

 関係人口を増やすには、広域交通の整備も不可欠なので、県では東九州道の4車線化及び中九州横断道路との連結、東九州新幹線の誘致などに取り組んでいます。豊予海峡ルートまで実現すれば四国も身近になり、行き来が活発になるわけですよね。そうなれば別府温泉に浸かったその日に道後温泉を訪ねることも可能です。

田中

 四国とつながれば関西の経済圏とも結ばれることになりますので、人流、物流が加速するルートとしてぜひ実現を期待しています!それ以前に、来年は大阪・関西万博が開催されますが、瀬戸内の各港に欧米から数多くのクルーズ船が寄港するでしょう。佐伯にも立ち寄ってもらう絶好のチャンス。クルーズ船はホテルも兼ねていますので、宿泊施設の少ない我がまちにとってはメリットも大きく、滞在中に佐伯の良さを存分に感じていただけるよう魅力を高めていかねばと思います。

佐藤

 関係人口といえば、ふるさと納税も大分と関わってもらうきっかけの一つになっているのではないでしょうか。

田中

 はい。佐伯市がふるさと納税に参加したのは平成20年のこと。当時はわずか13件、寄附金にして160万円でしたが、令和4年の実績は5万8千件、8億9千万円となっています。返礼品は約700種類あり、いずれも単価を安くしているのはリピーターを獲得していきたいからです。品物を信頼していただき、一過性の儲けではなく持続可能なふるさと納税を目指す戦略で、着実に件数を増やしている状況です。

 

佐藤

 市町村それぞれに工夫をしながら納税額を大きくしていただいていると感じています。県としてはこれまで、各市町村のお邪魔にならないよう、アルゲリッチ音楽祭のチケットや東京にあるフラッグショップ坐来大分の食事券などに限っていました。ところが他県の動向を調べてみると、県でも市町村の産品を発信したほうが、市町村のふるさと納税額が増えていることが分かりました。今後は各自治体とタイアップしながら、県としての納税額も増やしていきたいと考えています。昨年の2千6百万円から10倍、100倍になるよう取り組んでいきます。

 

田中

 おっしゃるとおり、県が旗を振っていただくことは大きな影響力があります。佐伯市の産品もぜひ扱っていただき、18市町村の共同戦線で互いに納税額を底上げしていけたら良いですね。大分県に名産品あり、ブランドありという気概を示していくことが県民の皆さんの明るい希望にもなると思います。

防災・減災に向けた県と市町村の連携

南海トラフ地震の前後に備える

 

佐藤

 近年、県内では高齢化などに伴い救急ニーズが高まっています。片や、県内に14か所ある消防本部では老朽化した機器の交換が必要で、人員不足の問題もあります。こうした背景をもとに、令和6年10月から県内市町村の消防指令業務を一元化することになりました。現在、大分市の荷揚町小学校跡地に建設中の複合公共施設内に共同通信司令センターを設け、大分市が県内すべての市町村から委託を受けて司令業務を共同運用します。県内全域からの119番通報をすべてここで処理し、市町村へ司令が飛ぶ仕組みです。一元化するメリットは、特に119番通報が混み合う災害時に発揮されるでしょう。回線が集約されることで多くの通報を受けられますので、当然、つながりやすくなります。それに、最新の通信機器を導入するなど、従来の約半分の人員で効率的に運営できるようにもなります。

田中

 共同運用については大変メリットを感じています。佐伯市にとっていちばん怖いのは、今後30年以内に70〜80%の確率で起きると言われている南海トラフ地震です。佐伯市だけで8千7百人の死者が想定されており、県内で最も大きな被害が見込まれています。そんななか、共同通信指令センターが完成すれば、もし佐伯市の消防が機能を失っても各市からスムーズに救援を送っていただけますよね。非常に「安全・安心」が高まるシステムだと喜んでいるところです。

佐藤

 防災・減災に向けては、災害に強いまちづくりをしていくことはもちろん、訓練などで心の準備をしていくことも重要です。さらに災害のあとには復興が不可欠ですが、佐伯市は九州の自治体では初めて事前復興計画の策定に着手しましたね。

 

田中

 ええ。南海トラフ地震だけではなく、近年は豪雨をはじめとする様々な災害が各地で起こっています。いかなる災害が発生しようと、国や県、地域の協力を仰ぎながら短期間で復旧、復興をするための計画です。専門家の方々にご意見をいただきながら、令和8年までにまとめる予定です。

 

佐藤

 復興の手順を定めることで日々の備えになるでしょうし、より災害に強いまちづくりも可能です。昨年、国が示したガイドラインなども参考に、地域ごとに計画を共有しておくことは、大変重要な取組ですね。県でも検討を早めていきたいと思います。

田中

 ぜひ、一緒に考えていきましょう!

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