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河童が息づくまち佐伯~昔話に宿る地域への思い~

 清らかな川をはじめ美しい自然が豊かな佐伯では、人々の暮らしの中で河童が身近な存在として語り継がれてきました。今号では、各地域に残る河童にまつわる昔話をご紹介します。河童を通じ、改めて郷土愛を感じてみませんか。

ふと見れば、
そこに河童がいたことは
ありませんか?

 佐伯にお住いの皆さんから、河童にまつわるいろいろな話を集めてみました。世にも不思議な話が多く寄せられています。実はあなたの住む家の近くにも、河童が潜んでいるかもしれません。

河童が番匠川をたまに泳いでいるらしい。

弥生地区の旧上野幼稚園付近のお宮に水神様が祀られており、そこから山王淵(現在は埋め立てられている)に向けた道が「河童の通り道」と聞かされていました。

泥谷地区では、夏になると河童の供養として、水神相撲と夜の仮装盆踊りが行われています。昔、水難事故が多く、村人と河童が相撲で対決した時、河童に逆立ちをさせて、皿の水がこぼれたので、河童が負けたそうです。それから河童は川に出ないかわりに、村人は三軒になるまで、毎年水神相撲と仮装踊りを続けると約束したそうです。

頭の上の皿の水がなくなったら生きていられないと聞きました。

昔、木立の川でイタズラされました。(何人か証言者がいます)

河童の通り道の上に建っている家は、怪奇現象が起こるかも。

河童はキュウリが好物で、キュウリの季節になると食べ荒らすそうです。

河童を「セコ」って呼んでいて、毛におおわれ、夏と冬で毛が生え変わるらしいです。

本匠で河童の声を聞いたことがあるという人がいました。「ホイッホーイ」と鳴くそうです。

人間が川の深いところで泳ぐと河童が足を引っ張るとか。

 佐伯には、各地域で河童についての昔話が語り継がれています。水難事故や恩返しなどテーマは様々ですが、昔から伝わる人々の思いや知恵を知ることができます。

さいきのむかし話

 冬になって川の水が枯れる頃、河童は山に上ってくる。そして「セコ」と呼ばれる。この「セコ」が山でいろいろと不思議な行動をするのである。
  昔、炭焼きが山に小屋を造って泊まり込みで仕事をしていた。ある真冬の夜中頃、山の上で「コツコツン・バリバリドシン」と大樹を切り倒す物凄い音がし、また「カタンカタン・ガラガラ」と樹を落とす大きな音がして、夜どおし眠れなかった。そこで、朝になって山に登ってみたが何も変わったことはなかったそうな。
 また、こんな話もある。山口の神楽山の近くの猿掛三丈人形首という所で、小雨の降る冬の夕方、種々の人形の首がコロコロと転がっているのに出遭うこともあったそうな。

 ある夜炭焼きの六さんが窯出しをしていたところ「バリバリ」と大きな音がして上屋(炭窯の屋根)を踏み破り、一斗樽ほどもある足が窯の甲を踏みつけた。ところが、炭焼きの六さんはなかなかの度胸者であったから少しも恐れず「なんと大きな足じゃのう。そんな足で横がるいセイタ(※)で木を負って運ぶことをさせてみてえのう。」といった。足はそのまま消えた。しばらくして向こうの屋根で「なんと度胸のいい奴じゃのう。」と大声がした。
 あれもこれもみんな「セコ」の悪戯だった。このように「セコ」は悪戯はしても実際には何も被害がなかったという。例外として「セコ」の通り道に小屋を建てると必ず突き破られたり、夜眠っていると胸を押えられて息ができないことがあるといわれて恐れられていた。
 何んとも恐ろしいような、可愛いいような愛嬌者の妖怪であったようである。


出典:さいきのむかし話
※荷物を背中に括り付けて運ぶための枠からなる運搬具

【河童先生こと】佐伯市教育員会 学校教育課 川野 剛さん

 川野 剛さんは、直川小学校4年生の担任をしていた時に、よくこどもたちに読み聞かせをしていました。そんなある日、地域に伝わる河童の物語を紹介したところ、自分たちが知っている身近な地名が出てきたことで、こどもたちが話に強く興味を示しました。そこから、川野さんは「もっと河童の話を集めたい」と思い、こどもたちと一緒に河童にまつわる昔話を地域の人へ聞き取りをして「直川河童物語集」という一冊を作りました。
 「河童と川は、切っても切り離せない関係です。中には危険な深みや急な流れがある所もあるので、こどもたちに遊ぶ時の注意を促し、警鐘を鳴らすような話もあります。美しい川を守ろうという思いも込めて、水と共存していくために生まれた先人たちの知恵が、昔話には込められているのではないでしょうか」と話してくれます。

直川河童物語集1つをご紹介

 これは94歳になる竹田坦さんに聞いたお話です。河童は昔、くるす川に住んでいました。河童はきれいな川が好きでした。ある時河童の住んでいた川が、汚れてしまいました。人間が川にごみを捨てたからです。それで河童は汚れてしまったくるす川には住めなくなったということです。

本匠中学校の取組

 番匠川の源流を発する本匠はホタルの里でもあり、手つかずの自然が残る野趣あふれる地域です。河童にまつわる昔話も多く残っており、川を見守るように橋のたもとに作られた陶製の河童の像が特徴です。

 近年、河童の銅像がなくなったり壊れたりと心痛むことがあり、本匠中学校では地域の景観を守るため、オリジナルの河童像を作る活動に取り組んでいます。制作を通じて地域愛を高め、ふるさとの風景を守ろうと意気込む生徒たちの姿を追いました。

河童作りを通じて地域に貢献したい

 本匠の昔話にはたくさんの河童が出てくるので、昔から河童に親しみを抱いていました。地域貢献の思いも込めて全校生徒で陶器の河童作りをしています。
 自分たちなりに「こんな河童がいたらいいな」と思いながら作っており、手にペンライトを持った「推し活河童」やラジカセ、CDを持つ「音楽河童」など、キーワードをもとにユニークな河童を発想してみました。できあがった河童は、銅像がなくなった橋の上に新しく飾られるそうなので、その風景を見るのが楽しみです。

昔話からひも解く、先人たちの思い

 河童にまつわる昔話が息づくまちを未来へ残すため、語りべとして地域で活動している市談会の久保さんへ話を聞きました。

 佐伯市池田匠南の元小学校長である久保 彰三さんは、市内各地域の様々な人に話を聞いて、地域に伝わる昔話を集めた「さいきのむかし話」をまとめています。また、昔話を集めていた時、特に河童の話が多かったことから、河童の話に特化した一冊「さいきのかっぱものがたり」という本の編集にもたずさわりました。
 「佐伯の各地域には昔話がたくさん残っています。河童の話も興味深く、普段の暮らしの中で河童に親しみを持っている人はとても多いように思います」と久保さん。例えば、「夜暗くなると河童が出てくるので、早く家に帰るように」「いつまでも川で泳ぐと河童に悪戯されるから気をつけるように」など、地域の宝であるこどもたちを守るために、作られた話も多いそうです。「昔話には、先人たちの知恵が詰まっています。昔話を読むと、その地域がどのような場所だったのかも読み解くことができるので、一人でも多くの人に、大切に語り継いでいってもらいたいです」と久保さんは話します。
 川があり、水や山が美しい佐伯では、地域の人たちが自然を大切にしている心も、昔話には込められているそうです。「自分の住む地域と、周りの自然を大切にする心。昔話や河童の話を読む時に、そのような思いも感じ取って欲しいです」と話しています。

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